一般社団法人モノジェニックの会

単一遺伝子による糖尿病の方,そのご家族の方のための友の会です。

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遺伝子解析はどうやって行われるの?

「遺伝子解析」は、MODY含め単一遺伝子による糖尿病の診断に必要な検査です。今回は、遺伝子解析を受けるにあたり、頻度の高い「遺伝子パネル解析」「全エクソン解析」「サンガーシーケンス」について、どういった流れで解析が行われるのかを解説します。また、解析の前後で行われる「遺伝カウンセリング」についても触れます。

遺伝カウンセリング(解析前)

遺伝子解析を受ける前に、解析を受ける方(クライアント)はまず「遺伝カウンセリング」を受けます。

遺伝カウンセリングは、遺伝子解析を受ける前に、遺伝子解析がどういうものか、何がわかるのか、そしてその結果がどのように生活や治療に影響するのかを十分に理解してもらうために実施します。

遺伝カウンセリングは、認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医が、次のような点について詳しく説明します。

検査の目的:遺伝子解析で何を調べるのか、どのような遺伝子を対象にするのか。

検査の結果が与える影響:病因となる遺伝子変化が見つかった場合、その結果が自分自身や家族にどう影響するか。

メリットとデメリット:検査を受けることで得られる情報と、それに伴うリスクや心理的な負担について。

このカウンセリングを通じて、検査を進めるかどうかを十分に理解し、納得したうえで決定をしてもらいます。また、家族性の病気であれば、家族にも同じ遺伝子変異がある可能性があるため、そのリスクについても話し合います。

カウンセリングを行った後、すぐに解析を受けなければならないという事はありません。いったん帰宅し、あらためて考えた後に解析を受けることや、遺伝子解析を受けるのをやめることもできます。

 

血液の採取

基本的な遺伝子解析は、通常の検査と同様に血液を用いて行います。健康診断や普段の診察と同様、腕から少量の末梢血液(約5〜10ml)を採取します。採血は通常の健康診断や病院での採血とほぼ同じで、特別な準備や手間はかかりません。

 

DNAの抽出

採取された血液は、専門の検査機関に送られ、血液中の「白血球」という細胞からDNAが抽出されます。

DNAは、細胞の核の中にある物質で、私たちの体を作るための「設計図」が詰まっています。このDNAが遺伝子解析のための対象となります。

 

遺伝子解析

遺伝子解析にはいくつかの方法がありますが、今回は主に行われる「遺伝子パネル解析」と「全エクソン解析」「サンガー解析」という3つの解析方法について解説します。

遺伝子パネル解析

病気に関わるとされる特定の遺伝子セットをターゲットにして変化を調べる方法です。特定のがん関係の遺伝子疾患の診断や、心筋症の診断に保険収載されています。診断のために必要な遺伝子セットが明確になっている場合には、遺伝子パネル解析が最適な選択肢となります。例えば、単一遺伝子による糖尿病のパネル解析では、糖尿病の発症に強い関係のある下記の遺伝子領域をだけを解析対象として解析します。

 

ABCC8 GATA6 GCK
GLUD1 HNF1A HNF1B
HNF4A INS INSR
KCNJ11 NEUROD1 PDX1
AIRE FOXP3 HADH
KLF11 WFS1 PIK3R1

<MODYパネル解析の一例>

パネル解析を選択するメリットとしては、既に病気に関与していることがわかっている遺伝子のみを調べるので、解析にかかる時間が比較的短く、結果が早く得られることが多いです。また、全エクソン解析や全ゲノム解析に比べて、遺伝子パネル解析はコストが低く抑えられることが特徴です。

いっぽうデメリットとしては、すでに病気に関連するとわかっている遺伝子のみを解析するため、研究の目的に未知の遺伝子変異を見つけることができません。

 

全エクソン解析

DNAの「エクソン」と呼ばれる部分すべてを対象に解析を行います。「エクソン」は、たんぱく質の設計情報を持っている部分で、遺伝子の中でも特に病気に関連しやすい部分とされています。全エクソン解析では、このエクソン領域すべてを調べ、病気の原因となる可能性がある遺伝子変化を特定します。

解析では、遺伝子解析装置を使って数百万ものDNAデータを読み取ります。大量のデータを高速かつ正確に処理する技術によって、従来の解析法では見つけにくい遺伝子変化を発見できるのが、全エクソン解析の大きな特徴です。

全エクソン解析で得られた遺伝子変化データは、スーパーコンピュータによって解析されます。DNA配列を通常の遺伝子配列(レファランスゲノム)と比較することで、遺伝子のどの部分に変化があるかを確認します。

全エクソン解析はを選択するメリットとしては、すべての遺伝子のエクソン領域を解析するため、病気に関連する可能性のある多数の遺伝子変異を一度に調べる点が挙げられます。これは、特定の遺伝子セットだけを調べる「遺伝子パネル解析」よりも広範な情報を得ることができ、未知の遺伝子変異を発見する可能性が高くなります。

また、これまで知られていなかった新しい遺伝子変異を発見することも可能です。特に、原因が不明の遺伝性疾患や複雑な病状において、有効な手がかりを得られる場合があります。

いっぽう、全エクソン解析のデメリットとしては、解析のコストが比較的高くなることや、数百万のデータを処理するために結果が出るまでに非常に時間がかかる点があります。

また、全エクソン解析によって得られるデータは非常に多く、特にこれまでに報告がないような新しい遺伝子変化が発見された場合、病気にどう影響するかを解釈するには追加の研究が必要となることがあります。結果の解釈には遺伝学の専門知識が求められ、必ずしも明確な答えが得られるとは限りません。

現在の症状とは関係のない遺伝子の解析も含まれますから、解析時には意図しなかった遺伝子変化(将来の病気のリスクなど)が見つかることがあります。こうした偶発的な発見は、早期発見・早期治療につながることもありますが、心理的負担となることもあり、その取り扱いについては事前に遺伝カウンセリングで説明を受けることが大切です。

 

サンガーシーケンス

特定の遺伝子配列の特定の領域(数百文字程度)を解析する方法です。遺伝子パネル解析や全エクソン解析などの次世代シーケンサーが出現するまでは主流の解析方法でした。遺伝子のうち非常に短い部分しか解析することができませんが、高精度で検出することができるため、現在も遺伝子パネル解析や、全エクソン解析で見つかった遺伝子変化が本当に存在するかを確認するために行われます。

また、1解析1000円程度と次世代シーケンサーよりも安価で解析が可能なので、すでに変化の場所がわかっている家族・血縁者解析などで選択されることがあります。

 

 

MLPA解析、マイクロアレイ解析

上記の「遺伝子パネル解析」「全エクソン解析」「サンガーシークエンス」は、遺伝子の1文字~数文字程度の細かい配列変化の検出が可能ですが、数千~数万文字にわたる大きな遺伝子配列の変化の検出ができません。

数千~数万文字にわたる大きな遺伝子配列の変化は「コピー数変異(CNV)」とよばれますが、検出のために「MLPA解析」「マイクロアレイ解析」という解析法行われることがあります。

遺伝子疾患の種類によっては,コピー数変異が原因で発症するものもあり,MLPA解析やマイクロアレイ解析が行われることがあります。

 

アノテーション

上記の遺伝子解析法で特定された遺伝子変化が、実際に病気に関係するかどうかを評価し、解釈づけを行うことをアノテーションと呼びます。

遺伝子配列の変化は、個性(生物学的多様性)をつくる元ともなっており、すべての遺伝子変化が病気の原因ではありません。遺伝子変化があれば必ず病気の原因である、とも考えられていた時期もありましたが、現在は下記分類に則って判定されます。

分類 説明
Pathogenic
(病原性あり)
検出された遺伝子変化は病気の原因であることが確実です。90%以上の確率でこの変化が病気を引き起こすと考えられます。
Likely pathogenic(おそらく病原性あり) 検出された遺伝子変化は病気を引き起こす可能性が非常に高い(約90%)と考えられますが、確定ではありません。症状の経過や状況をみて、総合的に判断が必要です。
VUS
(病原性意義不明)
検出された遺伝子変化が病気に関連しているかは不明で、今後の研究や追加の検査が必要です。
Likely benign
(おそらく良性)
検出された遺伝子変化は病気に関連している可能性は低いです。特に病気の原因になることは少なく、通常は特別な対応は不要です。

Benign
(良性)

検出された遺伝子変化は病気とは無関係と考えられます。治療や管理の必要もありません。

<ACMG/AMP2015 病原性解釈の一覧>

 

遺伝カウンセリング(解析後)

遺伝子解析の結果が出たら、再度遺伝カウンセリングが行われます。解析後の遺伝カウンセリングでは、次のような内容についてカウンセリングが行われます。

検査結果の意味:見つかった遺伝子変異が、どのように病気に関係しているのか、その詳細を説明します。上記のアノテーション結果の解釈やその説明についても触れられます。

治療や予防策について:結果に基づいて、どのような治療や予防が必要か、今後の治療方針を話し合います。

家族への影響:遺伝性の病気の場合、家族にも同じ変異が見つかる可能性があるため、家族への影響や今後の検査についても相談します。

遺伝カウンセリングでは、結果に対する心理的なサポートも行われます。例えば、遺伝子検査の結果が患者さんやその家族にとって思わしくなかった場合、結果を聞いた瞬間に泣き崩れてしまう、という場合もあります。

遺伝学的診断は、通常の検査に比べて遥かに心理的な影響が大きいため、十分な時間をかけてカウンセリングを受けることが望ましいです。